5月2日にSteamにて無料配信された『午前五時にピアノを弾く』をクリアしたので、その感想を書いていきたい。
エンディングに関わる話もするため、未プレイの方はネタバレに注意してほしい。
どんなゲームか
本作は『ナツノカナタ』で知られるKazuhide Oka氏の手によるテキストADVである。
主人公は森の中のログハウスに住む少女で、午前五時に目覚め、霧が立ち込めていると誘い出されるように散歩に行きたくなってしまう。
選択肢を選びながら歩き回り、無事午前八時を迎えることができれば物語が進行する。
少女には「眠気」「渇き」「狂気」「充電」の4つのパラメーターがあり、選択肢によってこれらは上昇していき、MAXの10を超えるとGAME OVERになってしまうのだ。
選ぶ答えによってどのパラメーターがいくつ上がるかは示されているので、値を超えないよう調整していくことが必要となる。
本作は難易度を選ぶことができ、プレイ中いつでも変更することができる。
パラメーター調整に手間取り先に進めない人は「CHILL」や「STORY」にすればテンポよくゲームを進めることができるので、ぜひ活用してほしい。
そして重要なのはアイテムの存在であり、ランダムで拾うことができ、使用することでパラメーターの上昇を軽減してくれたり、値を0にしてくれるなど様々な効果を持つ。
本作はマルチエンディングを採用しており、その分岐に関わってくる重要なアイテムも存在する。
幻想的な霧の中の散歩
少女が霧の中で目にするのは大きな橋や砂漠、踊る人々、どこからともなく聞こえる不思議な音楽や朝なのに見える星空などのどこか現実離れした、まるで夢を見ているかのようなものばかりである。
淡い色調のイラストが幻想的な雰囲気をより一層引き立てており、テキストは味わい深くひとつひとつの場面にドラマを感じさせる。
欲を言えば選択肢をえらんだ結果何が起きたのかを一文でもいいから知りたかった気もするが、あえて語らずプレイヤーの想像力にゆだねているのだろう。
少女が散策する中で出会う重要人物、それが記憶を失くした男性である。
穏やかな口調の男性と言葉を交わし、家で一緒に紅茶を飲み彼のピアノの音色に耳を傾けることで少女は自分でも気づかないうちに忘れていた幼い頃の記憶を徐々に思い出していく。
すべてのエンディングを見てほしい
やがて男性の正体が明らかになり、少女の記憶が戻り物語はエンディングを迎える。
エンディングは1~3が存在し、ノーマルエンディングがおそらく1であり、きれいに終わっているのだが、2は多少胸がざわつく内容となっている。
だがそれはすべての真相が明らかになるエンディング3に到達することで解消する。
そしてまた胸に染み入るような美しい物語の結末が語られるので、本作をプレイする人はエンディング3までぜひ見てほしい。
いずれにせよ共通しているのは「記憶と忘却」というテーマである。
人は様々なことを忘れていってしまう。
忘れたくないと願っていても、その記憶は時間と共に少しずつ薄れていってしまうのだ。
だが、そうだとしてもすべてが無に帰ってしまうわけではなく、たとえわずかであったとしてもその名残は確実に人に影響を及ぼしているのである――と、作品中繰り返し語られる。
ふと思うこと
どんな形かは人それぞれ違うだろうが、自分が生きた証を残したいと思っている人もいるだろう。
自分にとってはこのブログ『鈴木の既読スキップ』を書くことが世界に向けて”鈴木”という人間を表現する一つの手段である。
だが人生は何が起こるか分からない。
ここもいつしか更新されなくなり、そして人に忘れられていく可能性もあるだろう。
だがこのブログを読んでくれている人の心に、この文章や――文章は忘れても紹介されたゲームのことがわずかでも記憶として残ることがあるならば、たぶんそれが”鈴木”の生きた証になるのかもしれない。
そんなことをしんみりと思ってしまった。
とっておき真エンディング攻略法
さて、湿っぽくなってしまったので、最後にエンディング3に到達するとっておきの攻略法を伝授して終わろうと思う。
エンディング3に必要なものは2つのアイテムである。
どれが必須なのかは、説明文を読めば判別できると思う。
アイテムはランダムで拾えるため周回プレイとなるだろうが、タイトル画面から「つづける」を選択することで最後の一日を何回でもやり直すことができるのでそこまで苦にはならないだろう。
まず「GAME」モードにして目当てのアイテムが出てくるまでできるだけプレイを長引かせる。
そして拾ったら「STORY」モードにして一気に時間を経過させエンディングへ到達すればよい。
最後に
ぜひとも多くの人に『午前五時にピアノを弾く』をプレイしてもらい、夢幻的な霧の中の散歩と美しくて切なく、心温まる結末を見てほしい。
本作はSteamにて公開中であり、無料でプレイできる。