2022年ももう8月まで来た。
蝉しぐれを浴びながらアスファルトの上を歩いていると、まさに夏真っ盛りであると実感する。
夏といえば、そう、ホラーである。
ゲームでも一大ジャンルであるホラーには、数多くの名作が存在している。
その中で自分が語れる作品があるとすれば『エコーナイト』(フロム・ソフトウェア/PS/1998年)である。
本作は無人となった豪華客船オルフェウス号を探索していく一人称視点のポイント&クリック形式のアドベンチャーゲームとなっている。
『エコーナイト』を遊んだ理由
実は、自分はホラーがあまり得意ではない。
ではなぜ『エコーナイト』をプレイしたかと言えば、舞台が船だったからというのが大きい。
自分は『大航海時代III Costa del Sol』(コーエー/PC/1996年)をプレイしてからというもの、船の魅力にハマってしまった。
船がらみの映画やドラマを見たり、本を読んだり、リアル船を見に行ったりもした。
一番好きなのは木造帆船なのだが、『エコーナイト』のような豪華客船も守備範囲である。
つまりホラーゲームとしてというより、「船ゲー」として本作をプレイしたわけである。
そして無人になった船、といえば思い出すのは有名な「マリー・セレスト号」の事件である。
今しがたまで乗組員がいたかのような形跡を残しながら、無人のまま大海原をさまよっていたこの船の謎は未だに明らかになっておらず、それゆえ人々の心を惹きつけてやまない。
自分も子どもの時にこの事件について書かれた『消えた人間消えた船』(ポプラ社)という本を読んでからずっと頭の片隅にマリー・セレスト号のことが残っていた。
しかも『エコーナイト』では豪華客船がまるまる無人になっているという規模の大きさである。
ミステリアスな雰囲気をまとった船ゲー。
こんな面白そうな題材がそろっているからには、得意でないホラーゲームにも手を伸ばしたくなるというものである。
次は、この『エコーナイト』が自分にとってどういったゲームであるのかを語っていきたい。
電気のスイッチを必死で探すゲーム
『エコーナイト』をプレイした人なら分かると思うが、このゲームほど電気のスイッチを探すのに血眼になる作品はないだろう。
豪華客船オルフェウス号には悪霊がさまよっており、プレイヤーを攻撃してくる。
反撃をすることはできず、ただ逃げ回るのみである。
だがその悪霊は、電気を点けることでいなくなるのだ。
そのため、新しく足を踏み入れたエリア&部屋でまずすることは電気を点けることなのである。
単純にスイッチを押すだけで済むならいいが、中にはブレーカーを修理しなければ電気が点かないというステージもある。
ブレーカー修理には必要なアイテムがあり、それが無いと修理は失敗してしまう。
悪霊に出くわさないよう祈りながらアイテムを探し、ブレーカーを修理できたら、部屋に戻って電気のスイッチを押すのだ。
手間取っていると悪霊が現れてしまうので、大急ぎで、しかし冷静さを保ちながら的確にスイッチを探し当て、押す。
スイッチはたいていドアの横にあるのだが、たまに別の場所にあったりもする。
だが常識的なところにあるので、落ち着いて考えればおおよその位置の検討はつくだろう。
電気が点くと一安心。
これでようやくゆっくりと探索をすることができるのである。
自分にとって『エコーナイト』はまず「電気点けゲー」として記憶に残っている。
幽霊の心残りを晴らしてあげる成仏ゲー
しかし本作の真髄は、オルフェウス号にとどまっている幽霊たちの心残りを晴らし、成仏させてあげるという「成仏ゲー」部分にあると自分は思っている。
船にはプレイヤーを追いかけ回してくる悪霊の他に、数多くの無害な幽霊たちがいわば地縛霊のようにその場に留まっている。
黒い人影のような姿をした彼らは、失くしてしまった大切なものや果たせなかった約束にとらわれて成仏できずにいる。
「どこへ行ってしまったんだ…大切なものなのに…。あれがないと俺は…ああ…」
だいたいこのようなことをつぶやいている。
プレイヤーはアイテムを探し出したり、ちょっとしたパズルを解いて彼らの願いを叶えてあげることになる。
幽霊たちに探し求めていたアイテムを渡すと、彼らは感謝の言葉をのべて、消えていくのである。
「ああ…これだ。これをずっと探していたんだよ。これでやっと…。ありがとう…」
これがとてもグッと来る。
良かったなあ、いいことをしたなあとじんわり胸が熱くなるのである。
彼らのために電気の点かないエリアを悪霊と鬼ごっこしながら走り回ったとしても、それが報われるだけのカタルシスがこの成仏シーンにはある。
だからこそホラーが苦手な自分でもこのゲームを最後までクリアすることができた。
『エコーナイト』にはメインストーリーもあり、それも十分に見ごたえのあるものなのだが、より深く心に残っているのは、幽霊たちの悲しく切ないエピソードの数々の方である。
自分にとって本作はなによりも「成仏ゲー」なのである。
最後に
さて、「電気点けゲー」として、そして「成仏ゲー」としての『エコーナイト』の思い出を語ってきたが、いかがだっただろうか。
アドベンチャー好きの自分にとってはフロム・ソフトウェアのゲームといえばこの『エコーナイト』とそして『Déraciné(デラシネ)』である。
『Déraciné(デラシネ)』って何?という人は、以前書いたこの記事を読んでもらいたい。
こちらはホラーではない、一人称視点のアドベンチャーゲームである。
gameandbooknadonado.hatenablog.com
『Déraciné(デラシネ)』と違って『エコーナイト』には宮崎社長は関わっていないが、この2作には共通したムードがある。
温かみがありながら、静かな悲しみをたたえたゲームであり、そしてクリア後には深い余韻が残る。
どちらも紛れもない名作であると思う。
自分はこれからも、フロム・ソフトウェアが作るアドベンチャーゲームを待ち続けたい。
だが、できればホラー以外でお願いしたい…!
今回『エコーナイト』の思い出を振り返って心からそう思った次第である。