今週のお題「SFといえば」
自分にとっての最高のSF小説と言ったら、なんといっても高畑京一郎氏の『タイム・リープ あしたはきのう』(メディアワークス/1995年)である。
今でも数年おきに読み返したくなる名作であり、何度読んでもその鮮烈さは色褪せない。
かなり昔の作品であるが、嬉しいことに現在でもKindleで読むことができる。
さて、この小説の何がそこまで自分を惹きつけてやまないのかと言えば、時間SFとしての完成度の高さである。
矛盾なく組み立てられた構成は見事で、「美しい」と称したいほどだ。
ストーリーの始まりはこのような感じである。
主人公であるごく普通の女子高生、鹿島翔香(かしましょうか)はある日、自分が時間を跳びこえる能力を手に入れてしまったことに気がつく。
とある理由からクラスメイトの若松和彦(わかまつかずひこ)がそれに関わっているのではないかと思った翔香は、それまでほとんど交流がなかった彼に話しかけるのだが――。
この話はSFであると同時に高校を舞台にした青春ものでもあり、主人公翔香は自分に突然目覚めた力にとまどいながらも授業を受け、友人と昼食を食べ、回ってきた掃除当番の仕事をこなす。
普遍的な高校生の日常を描いているが、90年代に書かれた作品のため、携帯電話やスマホが登場しない点が今とはだいぶ異なるだろう。
クラスメイトの和彦は優等生かつクールな性格のせいか、どこか孤高の存在として扱われており、勇気を出して話しかけた翔香にもひどくそっけない態度をとる。
理詰めでものを考えるタイプである和彦に、翔香が自分の超能力を証明するためにとった「学生ならでは」の方法は、本作一番の見どころと言ってもいいだろう。
物語の進行とともに変わっていく二人の関係からも目が離せない。
とはいえ、このストーリーはサブタイトルの『あしたはきのう』の通り、時系列順に進行するのではない。
翔香は時間を跳躍してしまうという能力の特性上、昨日起こったことを知らなかったり、逆に明日起こることをすでに知っていたりする。
この設定を活かした構成が非常に見事であり、フローチャートを書きながら読みたくなるだろう。
ここまで語ってきたが、本作の面白さの真髄は、自分がいくら言葉を尽くしても伝えきれるものではない。
時間SF好きの人、青春SF好きの人にはぜひとも『タイム・リープ あしたはきのう』を実際に手にとって、この知的興奮を味わってもらいたい。
現在Kindleにて上下巻で発売されており、上巻は480円、下巻は528円である。
また、本作はKindle Unlimited対象作品にもなっている。