ぜひとも知ってほしい作品がある。
それは『Déraciné(デラシネ)』(2018年ソニー・インタラクティブエンタテインメント/PS4)という隠れた名作だ。
・VRで描く一味違ったフロムの世界
株式会社フロム・ソフトウェアの宮崎英高氏がディレクターを務めたこのゲームは、同社が制作している大人気の『エルデンリング』や『DARK SOULS』シリーズのような高難易度のアクションゲームではない。
アクション要素は一切ない、PSVR専用の一人称視点の3Dアドベンチャーゲームである。
・宮崎英高氏の意外な趣味、少女漫画的世界観
物語の舞台となる寄宿舎学校は19世紀ヴィクトリア朝イギリスの洋館を彷彿とさせる建物であり、穏やかな秋の日差しに包まれた、ノスタルジックな雰囲気が漂う場所だ。
メインキャラクターの少年少女は、アンティーク人形を思わせる繊細な目鼻立ちをしており、とても愛らしい。
彼らの話す言葉も穏やかで、優しさにあふれている。キャラクター同士も仲が良く、彼らのやりとりは見ていて微笑ましい。
その温かい世界にプレイヤーは妖精として現れ、彼らを手助けすることで関わり、受け入れられていく。
・動き出す時間に思わず息を飲む
ゲーム内の時間は止まったままで、キャラクターたちは彫像のようにその場に留まっている。
妖精であるプレイヤーは、彼らには見えない存在としてその中を一人だけ自由に動き回り、アイテムを動かすことによってのみキャラクターたちに干渉することができる。
ストーリーを進める上で必要な条件を満たすことで、止まっていた時間は針を進める。
目の前で子どもたちが動き出す一瞬は思わず息を飲んでしまうほど鮮烈で、その姿を見て、その声を聞くことがとても貴重な体験であるかのように思えてくるのだ。
・穏やかなだけで終わるはずがないフロムのゲーム
だが、この作品は少年少女たちとの交流を深めることだけが目的のゲームではない。
あるイベントが転機となって、『Déraciné』は激しく感情を揺さぶるゲームとなり、物語を先に進めなければという強い衝動が沸き起こる。
彼らと親しみ、その人となりを知る機会があったからこそプレイヤーはより物語にのめりこんでいくことになるのだ。
それまで子どもたちを見守り、彼らの望みを叶えるためにその手助けをしてきたプレイヤーが、今度は自分で考え自分の意志で動くことを必要とされるようになる。
そこではいくつもの葛藤が生まれるだろう。
悩み抜いた末にたどり着くエンディングでは、妖精と子どもたちとのストーリーに一つの回答が導き出され、全ての物事が収束して綺麗に幕を閉じる。
・胸がいっぱいになるエンディング
哀愁を帯びたメロディのメインテーマが流れる中、スタッフロールを見つめるプレイヤーの脳裏には子どもたちとの思い出が蘇り、そして胸はあふれ出る切なさでいっぱいになっていることだろう。
また、『Déraciné』には散りばめられた情報から、メインストーリーの設定を深堀りすることのできる余地も多く残されている。
エンディング後の余韻を味わいながら、想像力を働かせたプレイヤーも多いかもしれない。
・VRだけが売りではない、秀逸なストーリーの作品
自分はデビュートレーラーを見たときから、作品の雰囲気に魅了され、まずはとにかくあの世界に入り込みたいと感じて本作品を追いかけてきた。
実際にプレイして初めて『Déraciné』の物語としての完成度の高さを知ることとなったのである。
本作品をプレイするために必要なゲーム環境を整えることは簡単なことではないかもしれないが、一人でも多くの人に『Déraciné』をプレイしてほしいと願っている。