『春ゆきてレトロチカ』(スクウェア・エニックス/PS5/PS4/Switch/PC/2022年)をクリアしたので、ネタバレなしで感想を語っていきたいと思う。
前回の記事でシステム面については語ったため、作品全体について述べることにする。
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とてつもなく”エモい”
まず、このゲームをクリアして真っ先に頭に浮かんだのは、”エモい”という言葉だった。
心を揺さぶられ、こみ上げてくる感情を抑えきれないという意味である。
ミステリと”エモさ”は一見相反するジャンルにある言葉だと感じるかもしれない。
プロモーションでもこの『春ゆきてレトロチカ』は犯人当てがメインのゲームだと説明しており、手がかりを元に論理的に真相を明らかにすることがキモの作品であるかのように思われた。
前回の記事を書いた時点では、そのような認識でプレイしており、推理ゲームとして十分に本作を楽しんでいた。
しかしクリアしてから改めて振り返ると『春ゆきてレトロチカ』はミステリとしての面白さも持ちながら、それを上回るほどストーリーの秀逸さが際立っていたゲームであったという印象が強い。
浮世離れしたクラシカルな世界観
大正・昭和・令和と3つの時代を越えて100年に渡って繰り広げられる四十間家の物語。
主人公の河々見はるかは現代を生きるキャラクターである。
だが、彼女が訪れる四十間邸の人々はみな着物姿であり、立派な庭を持つ広大な屋敷というロケーションもあいまって、令和のシーンであってもどこかクラシカルで現実離れしたムードが漂う。
外界から隔絶されたような四十間邸においては、なるほど何が起きてもおかしくはないかも知れないと次第に思えてくるのである。
効果的なマルチロールシステム
はるかが過去に書かれた文章を読みながら思い浮かべたイメージを映像化したという設定の大正・昭和編では、本作の売りの一つである「マルチロールシステム」が大いに活かされている。
これは同じ俳優が時代が変わるごとに別の役を演じるというシステムであり、事件によっては犯人であったり被害者であったり、ただの脇役であったりと人物の重要度も異なる。
しかし、それぞれの見せ場はきちんと用意されており、物語を進めていくうちにプレイヤーが主要な俳優たちの顔をしっかりと覚えることができるようになっている。
そのことで現代の令和では出番が少ないキャラクターに対しても、よく見知った人物のように親しみを感じるという不思議な現象が起こるのである。
そしてそれこそが『春ゆきてレトロチカ』においては重要なポイントになっていたのだと今では分かる。
ネタバレなしだからこそ味わえる
本作は公式がネタバレ禁止を謳っている。
だが、たとえその禁止令がなかったとしても自分はこの作品の要の部分については語ることはしなかっただろう。
なぜなら自分が感じたこの”エモさ”は『春ゆきてレトロチカ』を始めから最後までプレイした人だけが味わうことができるものだと思うからである。
自らの手で事件を解決し、その中で登場人物たちのことを知っていくという過程があってこそ、輝くエンディングなのだ。
少しでも興味のある人は、ぜひとも100年に渡る物語の謎を解き明かし、クリア後に胸に押し寄せてくる感情の波に身を任せてほしい。
一人でも多くの人にこの”エモさ”を味わってもらいたいと思うばかりである。
最後に
本作で唯一ネックになっていた操作性についても8月10日に修正パッチが入り、かなり改善され、遊びやすくなったようである。
夏休みを前に何か面白いゲームはないか探しているストーリー重視のプレイヤーにはぜひともおすすめしたい作品だ。