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『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』そのとき自分は、たしかにリンクになったのだ

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そこに山があるから登るのだ



ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド(以下、ブレワイ)』(任天堂/Switch/2017年)は、もはや説明不要の名作である。

発売して5年経つ今でも日々新たなプレイヤーを生み出し続けている。

 

ブレワイをプレイした人たちにとって、このゲームで一番心に残った場面はどこだっただろう。

回生の祠を出て、ハイラルの大地が目前に広がっていた瞬間だろうか。

それともパラセールを手に入れて初めて滑空した瞬間だろうか。

バトル好きの人なら、ライネルを倒した瞬間かもしれない。

だが自分にとって一番の瞬間、それはどことも知らない山に登って、朝日が昇るのを見た時であった。

 

自分のプレイはとにかく未踏エリアをずんずん進んでいくという方針で、ストーリーやバトルよりも塔と祠の解放を優先していた。

まだ見たことのない景色を見たい、という気持ちに突き動かされながらゲームを進めていたのである。

その時も山の上に何があるのかを確認したい、そしてできるだけ高い場所からマップを把握したいという一心で、目の前に現れた山をひたすら登っていた。

今ではそれがどこの山だったのかも覚えていない。

 

いつから登り始めたのか、気がつけば辺りは夜になっていたようだった。料理を食べてがんばりゲージを回復しながら、ただただ頂上を目指して進む。

自分は無言で、リンクが崖を登る姿を見つめ続けていた。静かな夜だった。

その時とても不思議な感覚に陥った。リンクと自分とが一体化したかのように、ゲームをしているのにそれがゲームでなくリアルな出来事のように感じられたのだ。

全身を使って山を登るリンクと、椅子に座ってコントローラーを持っている自分とが同じ体験をしているはずはないのだが、その時たしかに自分はリンクとなって目の前に立ちはだかる高い山に挑んでいたのだ。

 

そしてようやく、山頂へとたどり着いた。

そこには、何もなかった。

達成感と疲労感で、ただぼうっとして辺りを眺めていると、地平線から輝く朝日がゆっくりと昇るのが見えた。思わず目を奪われた。

空がどんどん白んでいき、ああ、朝が来たのだとじんわりと実感が湧いてきた。

奇しくもその時は正月だったので、本物の初日の出を見るより先にゲーム内で見てしまったななどと考えているうちに、太陽は昇りきり、リンクとなりきっていた自分も一人のゲームプレイヤーとしての感覚を取り戻していた。

 

だが、山を登り続けたこの夜の記憶、そして目にしたまぶしい朝日のことをただのゲームプレイの一コマとして忘れ去るには惜しいと思った自分は、今まで一回も使用していなかったウツシエ機能を使ってみることにした。

自撮りモードにすると、そこには寒さに頬を赤くしたリンクが映っていた。ポーズを取らせ、シャッターを切る。

出来上がった写真は、傍から見ればなにも面白みのない、なぜ撮ったかも分からないような一枚である。

だが、自分にとっては言葉にならない思いが込められた一枚なのだ。

 

その後もたくさんの素晴らしい景色や魅力的な人々に出会い、夢中になってシャッターを切り続けてきた。

だが、どれだけ見栄えの良い写真が撮れたとしても、自分がリンクになって山を登り、朝日を見た思い出の残るあの一枚だけは格別である。

ウツシエの容量はすぐにいっぱいになってしまい、何枚か消去しなければいけなくなったが、あの写真だけはどうしても消せないで、今も残っている。