Twitterを見て走り出す
Twitterで紹介されていた本のタイトルを見て、自分は急いで身支度を始めた。
本屋へと出かけるためだ。
それも自分の行動範囲で一番大きな本屋へとである。
10月25日に発売されたばかりの新刊なので、それなりの規模の書店なら店頭に並んでいる可能性は高い。
もちろんネット書店に在庫があることは確認済みだ。
しかし、宅配を待っているような心の余裕はなかった。
今すぐ読みたいのだ。
高畑京一郎先生の『新装版タイム・リープ〈上〉〈下〉 あしたはきのう』(メディアワークス文庫)を。
この本を手に入れるため、あらゆる手段を講じる心づもりだった。
『新装版』とは?
書名に『新装版』とあるが、ただ単にカバーイラストを変えただけではなく、1996年に電撃文庫から刊行された作品に加筆・修正されたものが本作にあたる。
そして下巻の巻末には「『タイム・リープ』の思い出」という新規書き下ろしの高畑先生のコメントが収録されている。
自分は『タイム・リープ』が文庫化されるよりも前、1995年にメディアワークスから出たハードカバー版を愛読しており、今でも数年おきに読み返しているため、内容はほぼ頭に入っている。
セリフなどは暗記レベルで把握していると言ってもいいだろう。
そのため自分が本屋へ走ったのは主に加筆・修正および新規書き下ろし部分を読みたいがためであった。
自分ならどの部分が加筆・修正されているのかオリジナル版と見比べるまでもなく絶対に分かるはずだという自負心を胸に抱いていた。
紹介記事あります!
ところで本ブログ『鈴木の既読スキップ』は基本的にはゲームブログとして運営している。
だが、はてなブログ公式から出る「お題」のテーマが「SFといえば」なのを見た瞬間、あらゆるゲーム作品を差し置いてこの『タイム・リープ』を紹介してしまったことがある。
あらためて読み返すと、ネタバレを避けつつ上手くあらすじを紹介できているので、本作についてのおおまかな情報を知りたいという人はこちらに目を通してもらいたい。
gameandbooknadonado.hatenablog.com
無事GET
さて、幸運なことに一軒目の本屋で『新装版タイム・リープ〈上〉〈下〉 あしたはきのう』を無事手に入れることができた。
ちなみにメディアワークス文庫の本を買ったのは初めてであったため、売り場が分からず店員さんに尋ねるという一幕もあった。
会計を済ませた自分は、大きな本屋を目指してはるばるやって来たにも関わらず、即、帰路についた。
とにかくゆっくりと家で加筆・修正および新規書き下ろし部分を堪能したいという一心であった。
オリジナル版との違い
そこで自分がどのようにして『新装版 タイム・リープ』のオリジナル版との違いを見つけていったのかというと、初めから終わりまで普通に読んだ。
何回読んでも色褪せないその面白さに感嘆しながら、まずはいち読者として『タイム・リープ』という物語を楽しんだ。
飛ばし読みもせず、一行一行噛みしめながら読んだため、よほど細かい部分でなければ加筆・修正がどこであるかにもほぼ気づけたと思う。
ストーリーがガラッと変わるということはない。
例えば水曜日の保健室のシーンはセリフや描写がかなり加筆されていたが、それは状況を分かりやすくするためという意図からなされたものだと思われた。
他の部分でもセリフの語尾が変わっていたり、はたまたセリフ自体が置き換わっていたり、状況説明が書き足されていることに気づくことができた。
いずれにしても読者に対しての親切さから、あるいは作品が書かれた1995年と現代との価値観の変化に合わせてなされた絶妙なさじ加減での加筆・修正であった。
自分はオリジナルとの違いを見つける度にテンションが上ってしまい、繰り返し繰り返しその部分を読み返して一旦中断してしまうので、読み終わるまでに思った以上の時間がかかってしまった。
一瞬ウルっと来た
もちろん、書き下ろしの「『タイム・リープ』の思い出」も最後に読んだ。
もしかするとこれは自分が”ケーキのイチゴを最後まで取って置く派”なのも関係しているかも知れない。
正直、完全書き下ろしのこの部分を読んでいる時、手が震えてしまった。
高畑先生の新しい文章が読めるという事実だけでも十分気持ちが高ぶるというのに、さらにそこに書かれていることが、27年の時を経て明かされる『タイム・リープ』の執筆に関する貴重なエピソードだとなれば、冷静で居ろという方が無理な話である。
正直自分がどんな表情をしていたのか分からないので、カフェなどではなく家で読んでいて良かったと思わざるを得ない。
最後に
まだ『タイム・リープ』を読んだことのない人が新装版をきっかけに、この美しいほどに練り上げられた”青春時間SFミステリ”の面白さを体感する――それを思い浮かべるだけで、長年ファンを続けてきた身としては喜ばしい限りである。
以前読んだことがあるという人も、あらためて本作を手に取ればその魅力を再認識するだろう。
どういったきっかけで『新装版タイム・リープ』が発売されるに至ったのかは分からないが、この企画を立ち上げてくれた方々にお礼を言いたい。
2022年に『タイム・リープ』を本屋へと買いに走ることも、高畑京一郎先生の新しい文章を読むことも、正直、予想だにしていなかった。
Twitterで発売を知ってから最後の一ページを読み終えるまで、半ば夢の中にいるようだった。
夢から抜け出て書いているこの記事を見て、一人でも『タイム・リープ』を読もうと思ってくれた人が居てくれたら、こんなに嬉しいことはない。