『バディミッションBOND』(任天堂/Switch/2021年)は稀に見るほど完成度の高いストーリーが描かれた傑作アドベンチャーゲームである。
少年マンガを思わせる熱い展開の連続、そして緻密に張り巡らされた伏線が鮮やかに回収されていく様に、言葉もなく見入ったプレイヤーは多いことだろう。
以前、『バディミッションBOND』がプレイヤーの支持を受けている理由を自分なりにまとめたのがこの記事である。
よければ読んでみてもらいたい。
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迎えたエンディング、そしてバディエピソードとサイドエピソード。
すべてのストーリーを見終え、「COMPLETE」のスタンプが並んだ画面を見つめて達成感を覚えながらも、「もう、彼らの物語を見ることはできないのだ」という事実に直面して切ない気持ちになった人もたくさん居るのではないだろうか。
チームBONDの活躍をもっと見たい、エンディング後の彼らがどうなったのか知りたいという思いを胸に抱いて、あれこれ想像を巡らせたかもしれない。
そんなプレイヤーたちの願いに見事に答えてくれたのが、ドラマCD3部作である。
1作目『越境のハスマリー』は約1時間30分。
2作目『ヴィンウェイより愛をこめて』は約2時間。
3作目『ホリデー・バーレル』は約2時間30分。
これだけの時間、ぎっしりと『バディミ』クオリティの物語が続くのである。
『ハスマリー』『ヴィンウェイ』ではそれぞれ大きな1つのストーリーが描かれている。
3作目の『ホリデー・バーレル』はゲームでいうバディエピソード、サイドエピソードのように複数のショートストーリーから構成された内容となっている。
舞台となるのは本編から1年半後の世界であり、完全にエンディングから地続きとなっているため、クリア済みのプレイヤーを対象とした内容であることも強調しておきたい。
そして、3作目『ホリデー・バーレル』に至っては本編エンディング後に解放される、とあるサイドエピソードを「COMPLETE」にしてから聴くことを強くおすすめする。
ゲームプレイ体験を損なう可能性がある、重大なネタバレのオンパレードだからである。
そして、これらは発売順に時系列に並んでおり、前巻の内容にふれる場面もある。
3作揃える予定のある人なら、できれば上に挙げた順番で聴くことが望ましいだろう。
しかし、すべてを「COMPLETE」したプレイヤーでも、ドラマCDを聴くことにためらいを感じるかもしれない。
あれだけ完璧に幕を閉じた『バディミッションBOND』に、これ以上語ることなどないのではないか、CDを聴くことで作品のイメージが壊れてしまうのではないかと不安に思うのも当然だと思う。
また、ドラマCDという媒体に馴染みがなければより懸念は強まるだろう。
自分にも同じような迷いがあった。
しかし、出来上がったこの3部作は、そんな思いを吹き飛ばすかのように本編のハードルを軽々超えて新たなる物語を見せてくれたのである。
『バディミッションBOND』にまだこれだけの可能性が眠っていたということに、驚きを隠せない。
これまでドラマCDというものを聴いたことはなかったのだが、始まるとすぐにバディミワールドに引き込まれ、セリフを聴いているだけなのに「今、きっとこの表情しているんだろうな」などと脳裏にゲーム画面が浮かぶようになっていた。
ふんだんに盛り込まれたアクションシーンは、本編のOPやイベントシーンで見られたようなアニメーションとして思い描くことができた。
声と効果音、音楽だけで表現されているというのにとてつもない臨場感がある。
2作目『ヴィンウェイより愛をこめて』を聴いていた時、舞台となる極北の国の暗い空から降りしきる雪をたしかに目の前で見たし、吹きすさぶ寒風に身を縮こまらせていたと今でも思っている。
このドラマCD3部作は、実質『バディミッションBOND2』であると言ってもいいくらいのハイクオリティな作品であると今では感じている。
ゲームの続編を待つ人にこそ、ぜひ聴いてほしい。